これまで「新しい」ということは良いことだった。
百年以上、日本人はそう考えてきた。 しかし、最近全く違うものが見えてきているのではないか。 明治維新は日本の歴史にとって決定的な転換であると考えられている。 これを機に、日本は西洋文明を受け入れ、西欧の諸国と同じ舞台に立ったと。 確かに、同じ舞台に立ったのは事実。 同じものを欲しがり、争った。 第二次世界大戦の敗北があったものの、今日の日本の物質的繁栄は欲しがってきたものを実現した。西欧諸国と競り合い、勝利を手にした。 物質を得るのが目的だったのか、あるいは、他国に勝つことが目的だったのだろうか。 あるいは、物質を得ることによって他国に勝つことができたのか。 物質的繁栄が純粋に目的であるならば、それは他国は一切関係のない絶対的条件。 しかし、物質的繁栄を他国と争っているのが実情。 それが明治維新以来日本が求めてきたものであり、そのことに価値があると信ずればこそ明治以来の歴史に積極的な意味を見いだせるのだ。 そして、明治維新を「成功」させた「志士」がすばらしい人々として見えてくる。 しかし、明治以来の日本の歴史は、実際にはどのようなものであったのか。 これを考えるためには、確かな価値の観点を持たなければならない。 少なくとも、今日の我々にとって今日の我が国の現状は到底理想とは考えられない。 こんなものを求めてきたのであれば、それだけで明治維新は大失敗である。 我々は、我々の生の価値を最も高める文化・社会を必要としている。 実際の日本では、生の価値、生きる価値など趣味の問題と処理されてしまっている。 戊辰戦争、そこで「武士」という生き方が死んだ。 その生き方とは死によって生を反照するものだった。 つまり、生の価値を求める真剣な生き方が殺されたのである。 何が殺したのかというと、殺戮を目的とする合理的な思考である。 その思考においてはいかなる者であろうとも、戦士になり得る。武士に資格は必要であるが、兵隊に資格は必要ない。人を殺すに役立てばよいのである。 人を殺すのは物質的繁栄を競う争いに勝利するため、少なくとも負けないため。 このような思考が武士を殺した。 日露戦争の勝利は、この維新以来の思考を強力に推進するものとなったのだろう。 「西欧」の「大国」に対する勝利がなにかすばらしいものをもたらしたと錯覚させたのではないか。 実際に得られたのは、他国に対し我が国が優れているという優越感、自尊心。 人をたくさん殺し、物質をたくさん確保する。そのことで鼻高々に我らは世界の一等国、とうぬぼれたのである。西欧を優れた、進んだ国であると考えればこそ、そのような意識が出てくる。彼らがやっていることが出来たのだから、すばらしいと。 しかし、すばらしかったのであろうか。 幼稚で未熟な西欧文明の物質争奪戦に参入し、長い長い歴史の中でようやく残されてきた文化の本質、生き方を失ってしまった。 合理的な人殺し集団をつくり殺戮する。 それが人間の生の価値を高めることにつながるわけはない。 人を殺すことのみを合理的に考える西欧の発想と、それを実現する為の道具。 これを手にした者と、勝ち馬に乗ろうとする人々、それに長く培われてきた我が国の文化の本質が飲み込まれていったのである。 あまりにあっけない。 しかし、滅んだものが意義を回復しようとしている。 一方、今日優勢である考え方が、初めて批判されようとしている。 正しく評価できるようになったとき、我々はこう考えることが出来るだろう。 武士という生き方を殺すのであれば、むしろ、西欧に物質的な支配を許した方がよかっただろう、と。 しかし実際は、、支配されるという妄想がふくらみ、人間にとって最も重要なものを手放してしまった。 この歴史の中で、社会の倫理的な意識も衰微しいていった。 戦前の教育は成功していたのではなく、長い長い歴史のなかで少しずつ蓄えられてきた文化的・倫理的な財産を食いつぶしていたのである。 我々はそれがすっかり底をついたときに、ようやく気が付いた。 失われたものは大きく、回復は難しい。 生も死も頭にない幼稚な人間の国。 世界のどこかにはそうでない国が残っているかもしれない。
by lebendig
| 2005-03-23 02:14
| 日記
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